『新国誠一詩集』(思潮社)が出た。新国は1960年代から70年代にかけて「視覚詩」を独自の方法論で切り拓いた詩人だ。当時国際的にも高い評価を得ていたが、死後は言及が少なくなっただけに、今回の上梓を喜びたい。
   視覚詩とは、文字の形や配置などで視覚性を強調する実験詩のこと。日本語
では難しいと言われるが、新国はむしろ日本語ならではの可能性を見出した。大
小の漢字をちりばめ、紙面を奥行きある空間に見せる詩。ひらがなとカタカナを
混在させ、意味と音が生まれる現場を再現する詩。漢字の反復、類似、部首など
の面白さからデザインされた詩―。
  新国のモチーフは多岐にわたるが、いくつかは当時の社会問題への鋭い意識を
にじませる。「膿になった海」は、「膿」が埋め尽くす紙面の中心に「海」の一
字を置く。水俣病などの公害問題を視覚化したのだろう。「土」は、「土」を下
から上へ、サイズを次第に小さくして配置する。全体は、十字架が無数に並ぶ戦
場の墓地に見える。「反戦」では「反戦」の「反」がばらけ「又戦」になった後、やや大きく置かれた「又」で終わる、戦争の記憶が風化する社会への怒りか。
  新国は戦後詩の手法である隠喩の曖昧さを嫌う一方、言葉が写真を説明するよ
うな写真詩を批判し、「ことばがモノそのものとして自からうごきだす」視覚詩
を目指した。視覚詩はやがて言葉のエネルギーで国家を超え、「空間文明時代の
人間の宇宙的存在」に寄与すると考えた。
  新国は1977年に52歳で亡くなったが、その詩は古びるどころか、今鮮やかに発光する。 未来を信じる詩のエネルギーが、未来を忘れた時代の薄闇を刺し貫く。

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