詩「紅の匂い」


                          河津聖恵

絵師とは画業の果てに死ではなく
闇に燃えおちつづける
熱い火種となることを選んだ者 
みよ 彼は今もここにあかあかと生きて  いる
漆黒の脚で大地をふみしめ
虚空をふりあおぎ
軍鶏はちからづよく言挙げをする
彼方でまなざしに照応する赤色巨星は描かれていない
外の外の宇宙に
それはいまもふくらみ赫き いのちを渇仰する

わずかにひらく嘴が不思議な笑まいを含み
三百年の空気を共振させる
ふいに漆黒の尾が打ち振られ
中空から南天の紅がずっしりと呼びよせられた
鮮血―
果てなくめぐるものに挑みつづけた軍鶏の
ついに あるいは
ふたたびの永遠の正午 
無量の実と共に鬨の声をたかだかと上げるそれは
一瞬の戦争
あるいは天地開闢
気配に気づいた者だけが絵を「見る」のではなく
色を「聴く」
黒の身じろぎと紅の匂いに
(色は匂い 絵師はそれを神気と呼んだ)
抱かれながら

偽りの世にみずから盲い 
軍鶏の生命にまなこをみひらき
世の闇に生きる痛みをおしのべた
絵師のまなざしが
今いきものからあふれる光の辰砂に埋められていく

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